頭部外傷・脳挫傷の損害賠償の解説

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頭部外傷・脳挫傷の損害賠償の解説

交通事故というと単独の軽微な事故から人身事故までいろいろあります。

対人無制限に加入しますが、対人事故はいったいいくらぐらいかかるのでしょうか?怪我に大怪我・擦り傷があるように、怪我に応じた賠償金の高低もあります。結論から言えば対人賠償保険は無制限で加入するのが一番です。けどいくらぐらい賠償するのか知っておくのも勉強になります。

今回は頭部外傷の中でも急性硬膜下血種という重症事案のケーススタディを行います。損保業界に勤務される方でも知らない人も多い深い内容なんで、参考までにご一読下さいませ。

ケーススタディ

部外傷は交通事故において賠償額という視点で考えると、高額の賠償に繋がるケースがあります。というのも医学的な視点で考えれば、脳自体は硬い頭蓋骨で守られていますが、硬膜下に血種が出来てしまうと、頭蓋内圧が亢進し脳内の圧迫がはじまります。頭蓋の容積は限られている訳ですから、そのままにすると脳幹に損傷を与えてしまい呼吸停止・心停止⇒最悪死に至るケースがあるからです。脳幹損傷・・恐ろしい言葉です。脳挫傷の損害賠償は?
脳は人間の臓器の中で一番大切な部位です。人間の臓器の中で一つとして無駄な部分はありませんが、脳だけは代替がききません。 このぐらいの怪我になると当然の自賠責保険だけでは補償できません。お金で済ますことではないですが、法的な賠償責任額を検討してみましょう。

事故原因

横断歩道上の歩行者に接触。100対0の一方的加害事故。

被害者の情報

40歳のサラリーマン・年収800万円・配偶者・子供1人と同居

怪我の症状

脳挫傷・急性硬膜下血種。意識レベルはJCS(ジャパンコーマスケール)で3桁。救急搬送の為詳細は事故当初不明。重症患者です。

補償金の解説

命を救うために緊急手術が行われます。手術が終わってもその後の入院・退院・リハビリと社会復帰にむけて時間を要します。当然その間の補償をしなければなりません。

治療費

硬膜下血種という重症事案において治療費の予測を立てることは困難です。経験則から判断することも多いですが、自由診療をしたと仮定しましょう。点単価は15円とします。
考えられる治療は「開頭術による血種除去」その後「ICUにて術後管理」硬膜下血種を起こすぐらいの事故ですから当然他の損傷・骨折等もあると思われます。骨折の手術は落ち着いてから行われるのが一般的です。

休業補償

年収800万円から単純に日額を計算すると21,918円です。しかしながら今回は1年は仕事が出来ない状況が予測できます。

交通費・雑費

入院のときになにかとお金がかかります。日額1,100円ぐらいで賠償するのが一般的です。

慰謝料

傷病名・治療期間から考えると、200万円前後が妥当と思われます。あくまで示談は話し合いの場ですので、この金額が正しいわけではありません。お金に関する感覚は皆さんぜんぜん違うでしょうから。

その他

子供が小さいことを考えると、奥さんが不在中の家事が心配です。パートタイマーの家政婦さんなど臨時の出費もあると思われます。また後遺障害を考える必要があります。労務制限や高次脳機能障害が心配です。

後遺障害も検討が必要です

上記はあくまで基本の部分のみを計算の対象にしてみました。一家の大黒柱がそんな状態になれば家事や家庭内も負担が大きくなります。しかし残念ながら交通事故の賠償においては損害として請求できるのは、あくまで本人の損害のみです。

死亡事故は配偶者の有無で逸失利益の控除率がちがいますが、回復が可能な怪我部分については本人の損害が基本です。あとは任意保険の担当者が個別に判断していくべきことと思います。保険会社の担当者も同じ人間です。困っていることがあれば相談してみましょう。完全看護下の病院において家族の付添介護は不要でしょとバッサリぶった切る担当者は困りますが、法的には根拠があります。受け容れざるを得ないとこですが、多少慰謝料で調整する配慮が求められます。

さて、実際このケースにおいて補償額はいくらぐらいになるでしょうか?今回は入院半年その後半年で症状固定となり後遺障害認定を行って、7級の神経系統の障害の認定がおりました。

損害賠償額
治療費(1,000万円) 健康保険を使用すればもっと安くはなります。自分が悪い事故や単独事故のときは必ず健康保険を使いましょう。

休業補償(800万円) 年収800万円で365日分を補償の対象にして計算してみました。

交通費・雑費(50万円) なんだかんだいってこれぐらいはかかると思われます。

傷害慰謝料(200万円 )入院・通院とお怪我に対する慰謝料です。
後遺障害慰謝料(800万円) 今回は自賠責保険後遺障害等級7級神経系統の障害

後遺障害逸失利益(6,440万円 )喪失率は56%(通常より半分以下という状態です)症状固定時41歳から67歳までで26年間を補償。係数は14.375です。(2020年民法改正前の試算です)

なんと合計で9,290万円かかることが想定されます。自賠責から1,171万支払われますから実際の負担額は8,119万です。実際の示談となれば「年収800万円を67歳まで継続できるのか」という問題がありますから示談ベースではもう少し低い金額で示談が成立すると思われます。通常の会社では55歳で定年その後嘱託にて再雇用で60歳というのが一般的です。60歳以降は年齢別平均賃金にて賠償というのも客観的な考え方だと思います。

 コンテンツだけ読むと淡々と進みますが、実際に自分が負傷した事を想像すれば大変な事態である事はわかりますね。被害者本人・家族・医師・看護師・保険会社一番大変なのは被害者本人です。

加害者になってしまった時被害者に金銭的な負担を負わせない為にも、保険は対人・対物無制限が合言葉&市街地では安全運転で!

2020年4月から民法が改正

120年ぶりに民法が改正されました。ライプニッツ係数も変更されていますので、賠償金は更に膨らみます。改正前は損失額の期限が到来前という事で、現在価値を5%で見込んでいましたが、改正後は3%で積算します。

将来のお金を今受け取るのだから、銀行に預ければ金利が付くので利息分割り引きますよというシステムです。改正後の3%でも運用は厳しいですが、被害者にとってはいいお知らせです。